先代ヴィッキーは、かっこよく言えばチンチラのハーフでしたが、要するに雑種の猫でした。獣医さんにかかったのは避妊手術のときと、最後に腫瘍があるといわれたときだけで、そのほかは一切手のかからない猫でした。時には鶏レバーやお刺身をあげることはあっても、市販のキャットフードが日常食なのに、手入れという手入れを必要としない健康体でした。ひ弱だったら、飼い主も彼女の生きているうちに手作りフードにしなくてはと、悔い改めたのではなかったかと今にして思います。健康だったがゆえに、自然でおいしい食事を必要としなくても充分生きて行けたので、愚かな飼い主は先代ヴィッキーの食生活に非常に無頓着でした。どの猫缶を開けても、気に入らないときは、わがままをいっているのだと思い、猫がどんなものを必要としているかを察してあげることはありませんでした。
その15年生きた先代ヴィッキーには、一度も耳掃除なんぞしたことはありませんでした。常に耳の中はきれいなピンク色をしており、猫に耳掃除なんてものが必要だとはついぞ考えたことはありませんでした。
ところが、生後5か月近く立ったちびヴィッキーの耳の中を何気なく覗いてびっくりしました。茶色の斑点がポツポツ耳一面に見えています。これは大変。そういえば、引き取る前にペットショップに面会に行った日に、耳がずい分濡れているときがあり、その日は耳掃除をしたとスタッフが言ったのを思い出しました。
一度もやったことのない猫の耳掃除って一体どうやるのか。本をかたっぱしからめくると、イヤークリーナーを注ぎ込み耳の根元を揉むとか、アルコールやベビーオイルをコットンにしみこませて拭き取るとか書いてあります。イヤークリーナーなんて手元にないし、猫は液体を注がれても痛くはないとありますが、元来水に濡れるのが好きではない動物にそんなことをするのはいかがなものか。消毒するだけで真っ赤になるアルコールに敏感な人もいるし、ベビーオイルというのは鉱物油、自然なオイルではありません。
そこで、お臍の掃除を思い出し、綿棒にオリーヴバージンオイルをしみこませ、耳の中をころがしてみましたが、掃除しなければならない面積が広く、これでは埒があきません。綿棒でこすったりしたら耳を傷つけるかもしれないと、綿花にオリーヴオイルをしみこませ、指をつっこんで静かにふくことにしました。さすがオリーヴオイルです。強くこすらなくとも、きれいに茶色の斑点はなくなりました。そのままだと、耳の中が油っぽくなるので、乾いていた方がいいだろうと、グルーミング用に買っておいたシルクパウダーの存在を思い出し、指につけて耳の内側をソフトタッチでこすりました。
嫌がられそうだと内心びくびくしながら掃除していたのに、ヴィッキーがグルグルいいだしたので驚きました。優しく耳掃除されると、人間も気持ち良いですものね。
耳の中には飾り毛まで生えているヴィッキー、シルクパウダーでさっぱりさせておけば、当分耳掃除しなくても大丈夫かな。